問題の木曜日。
昼過ぎに社長が厚木の事務所に現れ、下北さんと私を連れて櫂の大叔母さまの料亭に向かった。

「どうしても行かなきゃダメですか?」

「灯里さんの同席は東山氏と施主さんの希望だって聞いてますから。今日だけ我慢してくださいね」
下北さんがなだめるように本日三度目のセリフを私に言う。

私が入社したいきさつを知っている下北さんはここ一連の雰囲気で私と櫂が以前付き合っていたことに気が付いている。はっきりと言われたわけじゃないのは気をつかってくれているからだろう。

社長の口数は少なくて、やっぱりあまり機嫌がよくないみたいだ。

そりゃそうだよね。
櫂と会った時に私との関係を匂わされ、会食に私まで招待されて、実力でとった仕事とは違うってことにはっきりと気が付いている。

でも、会社の今後のことを考えたら受けた方がいいに決まってる。

私はここ数日、ひたすら櫂を恨んでいた。

過去の謝罪はもういいって言ったじゃない。勝手に未来に踏み出せばいいじゃない。
どうしてほっといてくれないんだろう。

穏やかな今の生活を櫂に乱されたことで更に恨みが増していく。
ここはやっとできた私の居場所なのに。