「この仕事、受けるかどうかは木曜日に東山氏と会って話を聞いてから決めるから」

櫂が帰ってから社長とゆっくり話をする時間はなくて、それだけ言うとあわただしく社長は長野に帰ってしまった。

「灯里さん、ちょっといい?」
下北さんがちょいちょいと手招きをする。
軽く頷くと二人でオフィスの隅にあるソファーに座った。

「木曜日に東山氏がこっちに来るそうだね。社長と会食しながらこの話をするってことになるらしいよ」
下北さんが補足情報をくれた。

「この話、受けたら会社にプラスですよね」
「うん、それはかなりね。イースト設計と仕事するってこともだけど。施主さんがね、かなり老舗の商売をしてるお宅でね、地元に影響力があるんだよ」

「施主さんもですか」
「そう。老舗料亭の母屋の建築らしいから」

老舗料亭ってまさか!
地元の老舗料亭と聞いて櫂の大叔母さまの顔が浮かんだ。

「下北さん、イースト設計からの依頼書見せてください」

下北さんの背中を押すようにせかして書類を手に入れた。

施主欄を見て確信する。
櫂の大叔母さまの料亭だ。