[another side]
雨が激しくなってきた。
バイト先で借りたビニール傘。
そこに当たる雨粒は攻撃的で、
人が外に出ることを天気が拒んでいるようだった。
街路樹が風に吹きさらされ、大きく揺れた。
急いで近く建物に避難する。
通り雨だろう。
きっと少し待てば少しは雨もマシになる。
雨水を乗せた傘を下ろすと、
大量の雨粒がぼたぼたとコンクリートの地面に雨跡をつけた。
傘をたたんでコンクリートの建物の角に置いた。
ふと息をついた時、
背後から雨音とは別の音が聞こえた。
俺は反射的に背後を振り返った。
クーンクーン
小さいが残っている限りの力を振り絞るような、
高く細い鳴き声だった。
そこには雨に濡れ、片面が萎び切ったダンボールが1つ、
ポツンと置かれていた。
この萎びた箱の中に何が入っているかは
勘づいていた。
遠い昔の俺ならばきっと、
見て見ぬ振りをしていた。
いや、それ以前に気が付かなかったかもしれない。
この中に入っている物は見てはいけない。
絶対に。
このまま、見て見ぬ振りをして雨がやんだら
この場を去るんだ。
段ボール箱から目をそらし、
雨の降る街並みを眺めた。
それに…
今の俺には
これ以上何かを抱える余裕なんて無い。
父も言っていた
「目先の情に流されるな」と。
そして、
その代償は時に
自分の身を削ることになりうるとも。
下手をすれば。相手の怨みを買う、とも…
しかし、そう言っていた父は、もういない。