残り10メートルのところで次なる刺客は襲いかかってきた。

「ちくしょう、こんな時に!」

勇者の行く手を切れた電線が阻んでいるのだ。
前門の虎後門の狼とはまさしくこの事である。
このまま突っ込めば間違いなく電線に絡め取られて看板が直撃する。
かといって電線を避ければその一瞬で看板に追いつかれる。

「どうする俺!考えてる時間はない!」

勇者はしっかりとドーナツを両手で挟んで持つとそのまま盛大にスライディングをかました。
野球をやっていた頃のようにホームベースに突っ込む勢いでそのまま交差点を曲がり滑り込んだ。
プロ野球チームの監督が見てたらスカウトされるんじゃないか!?と思うくらい勇者的には完璧だったらしい。
服が汚れたのは気にしておらず、寧ろ勝者の勲章と思えば誇らしかった。

一息ついて振り返れば看板は電線に引っかかり止まっていた。
どうやら危機一髪だったらしい。
しかしこれで残りは50メートル。
もうゴールは目前だ。