玄関の扉を前に青年は不敵な笑みをもらす。
傘を片手に仁王立ちするその様は勇者のようにもみえた。
時計の針は間もなく夕方の6時を指そうとしている。

「よし、行くか。」

ほんの少しの緊張感を持って勇者は玄関の扉を開けた。
途端に舞い込むのは猛烈な風と少量の雨。
勇者はゴクリと喉を鳴らすと傘を強く握りなおした。

そう。
今日は台風なのである。
それもまた、ここ近年では類を見ないほどの大型であるらしかった。

また何故そんな日に外へ、と凡人ならば思うであろう。
しかし彼は凡人ではない。
勇者である。
そんな勇者が台風に挑まないはずがなかろう。

彼が危険をかえりみずここまでするのには理由がある。
それは好奇心である。
己が最強であるという自負が今世紀最大の台風にさえ勝てると信じたいのだ。
好奇心は正義である。
もはやこの勇者を止められるものはいないのだ。

勇者は一歩足を外へと踏み出した。