「で、結局なにが起きてたの?」

 割り箸を真ん中でまっぷたつに割った樫野さんが改めてさっきの現状を尋ねる。谷口さんは再び忙しく肉を焼きはじめながら答えた。

「言った通りだよ。ちょうどいい番犬を見つけたんだ」

「番犬って……」

 宮脇さんが横目で谷口さんを見る。その宮脇さんの皿に谷口さんは焼けたお肉をひょいっと入れた。

「お前、車は運転できるのか?」

「……一応。ミッションも持ってる」

「ならいい。ちょっと店を手伝え」

「は?」

 素っ頓狂な声を出した宮脇さんの顔を谷口さんはようやく見つめた。

「金はあまり出せねぇが、食べ物と仕事はやる。俺も目がだいぶ霞んできて運転がきつくなってきてな。牛を割ってもその肉を卸す場所がない。でも車使って中心地まで行けば、それなりに取引相手はいる。店に置く商品も仕入れて欲しいしな。その面と体格なら簡単には襲われないだろ」

「じゃぁ、ウインナー食える?」

「かもな」

 無邪気に尋ねた健二くんに谷口さんは軽く答えた。宮脇さんは呆然として口を開けたままだ。

 ややあって、うつむくように静かに頭を下げた。そして顔を上げた宮脇さんが見つめたのは谷口さんではなかった。

「おい坊主」

「な、なんだよ」

 肉を頬張ろうとしていた健二くんは、突然話題を振られ怪訝そうに答える。

「肉のお礼に、ウインナー探してきてやるよ」

 しかし続けられた宮脇さんの言葉に、健二くんは目をぱちくりとさせる。そして満面の笑みをみせた。