**


「伊織。お風呂上がったよ。」


「…あ!はい。」


午後九時。荷物の整理などが終わり、二人で夕飯を済ませ、やっと一息ついた。

少し緊張している様子の伊織は、風呂上がりの私を直視せず、用意したバスタオルと着替えを持って、そそくさと風呂場に向かう。

シャンプー、リンスなど、カタカナ表記の説明はしてあるが、少し不安だ。


『わ!』


風呂場から、慌てた伊織の声と、ビシャー!と勢いよく出るシャワーの音がする。


「伊織、大丈夫ー?」


『だ、大丈夫です!お気になさらず!』


ゴトン!ガラガラ!とシャンプー類のボトルが散らばる音に、くすり、と笑った私。しかし、平静を装っているが、実は私の心臓もバクバクだ。

こんなに伊織と二人っきりの時間が長いのは、初めて。それに加え、彼が現代の私の部屋にいる。夢にも思わなかったシュチュエーションに、どこか落ち着かない。


「…あ。」


その時、ふと窓の外に視線が移った。黄金の月が煌々と輝いている。


(…満月まで、あと一週間、か。)