すっかりご馳走になって申し訳ない気持ちになっていると彼が気遣って私に声をかけた。

「本社に西村さんが来る必要はなかったんだよ。
 今日は私のわがままに付き合ってもらったようなものだから功労賞と思っておいて。」

 急に上司の顔で言うものだから「では、ありがたく受け取っておきます」と仰々しく返した。

 車に乗り込んですぐに電話が騒がしくなって、それはあろうことか私の携帯だった。

「電話じゃない?
 俺のことは気にしないで。
 出たらいい。」

「いえ……。」

「いいから出なよ。急用だといけない。」

 倉林支社長の言葉に甘えて携帯を確認してから電話に出ることにした。
 画面には『鈴村陽真』と表示されていた。

「はい。」

『もしもし?花音?
 今度、地元に帰るよ。』

 明るい陽真の声に自然と頬が緩む。

「そうなんだ。」

『泊めてよ。』

 陽真の冗談に笑って返した。

「何、言ってるの。」

 携帯の向こう側で陽真も笑っているのが分かる。
 物理的な距離も一気に近くなる気がするから不思議だ。

『飲みに行こう。』

「そうね。また連絡するわ。」