とある週末の昼下がりのこと。


「…………いいよ私は。緊張するから一人で行ってきて」


「そういう訳にはいきません。透子もぜひ一緒にとの話です」


「でも私は高柳さんと親しい訳じゃないし、個人的にはまだちょっと怖いし。ものすごく恩義は感じてるけど…………」



夏雪が高柳さんのおウチに招待されたらしく、私まで一緒に誘われた。そう言われてもプライベートで高柳さんに会うだなんてハードルが高すぎる。



「二人で共謀しておいて何を今さら?」


「私は何も企んでないってば」


夏雪は物言いたげな視線を送ってくるけど、あの時はとにかく夏雪の事が心配で高柳さんの力を借りたのだ。いや、「借りた」というのは正しくないかもしれない。

他に方法がなかったとはいえ、私は高柳さんを脅迫してお願いを聞いてもらおうとした。そのことを考えると気軽に会える人ではなくて…………。



首をぶんぶん振って「無理、無理」と伝えたけれど、夏雪は全く引く気がない。


「透子に来てほしい理由はもうひとつあります。

高柳さんの婚約者をこちら側に抱き込む必要があるのです。」


「そのミッションふうな言い回しは何なのよ?」



共謀だとか、抱き込むとか。

会社でお世話になっている人のウチに招待されたにしては、さっきから発言が物騒だ。


夏雪は日頃から不祥事と向き合っているから、思考がそっちよりになるのはわかるけど………。


「仲良くなるとか、打ち解けるとかっていう話でしょ?」


「それはあくまで表向きに過ぎません。

………彼女を止めなければ、エヴァーの経営上深刻な事態が訪れます。」


堅い表情で夏雪が説明したのは、将来的に高柳さんが会社を辞めるかもしれないという話だった。