「お父さんが海外で病気になったから迎えに行ったって? どうせ嘘をつくなら、もっとマシな脚本考えてこいよ」

 松倉先輩が疑わし気な目でこっちを睨む。ペアで進めなければいけない仕事なのに、ひとりがいきなり休んでしまった。ということは、二人分の仕事が先輩に乗っかってしまったのだろう。

「嘘じゃありません。どうかこれを」

 他の人に見られないよう、そっとハンガリーで買ったチョコレートの箱を渡す。見覚えのない外国語が並んだパッケージを眺め、松倉先輩はそっとそれをカバンに入れた。どうやらお菓子は好きらしい。

「とにかく、一週間も休んだんだ。今日から俺の倍働いてくれよ」

「はい、すみませんでした」

 ハンガリーの病院から退院したお父さんと私と昴さんは、ホテルに泊まることにした。もう夜に差し掛かっていたし、私も昴さんも疲れていた。

 お父さんの手前、それぞれ別の部屋をとってくれた昴さんとは、一緒に寝ることはなかった。

 疲れているはずなのに、ベッドに入ってもなかなか眠れない。私の頭の中では、昴さんの言葉がこだましていた。