「ところで社長、どうしてこんなところへ……」

「その呼び方はやめてもらおう」

 電気ポットでお湯を沸かしてコーヒーを淹れて出す。小さなテーブルの前に胡坐をかいて座る昴さん。こんなにワンルームが似合わない人、初めて見た。

「それよりまず、さっきの電話について話す必要がある」

 『お前に会いたかったから』というような甘い言葉を期待していた私は、内心落胆しながらも背を正す。昴さんの表情には緊迫感が漂っていた。

「いったいなんの電話だったんですか」

 電話の相手は明らかに英語圏ではない外国の人だった。そういうところに知りあいはいない。

 そう思ったとき、ハッとひらめいた。

 いた。すごく身近に、外国を放浪している人が。どうして今までピンと来なかったんだろう。

「もしかして、父のこと?」

 尋ねると、昴さんはこくりと頷いた。

「彼は今、ハンガリーにいるらしい」

「ハンガリー!?」

 それ、どこらへんだっけ。あ、ヨーロッパか。オーストリアとルーマニアの間ね。公用語は英語ではなく、ハンガリー語だったっけ。