ボンッ!!

小さな爆発音とともに室内に煙が充満する。

「ゲホゲホッ!えっ?タヨ子さんあの契約マジだったの!?ったく悪魔使い荒すぎるよぉ…」

そして聞こえた知らない男の声。

「えっ…誰?」

思わず声を発すると、煙の向こう側で男がゆっくりと振り返るのが分かった。
その目は煙越しでも分かるくらい、獣のように赤く輝いていた。
そして、背中にある二個の何かを動かすと、風力によって充満していた煙は直ちに消えた。
司(つかさ)はその男の容姿に目を見開く。

背中から生えたコウモリのような黒い羽。
頭から生え、ぐるりと渦巻いた羊のような二本の角。
鮮血の如く輝く赤い瞳。
整った可愛らしい顔立ち。
百七十ほどの背丈。
黒いフード付きのパーカーにデニムのジーパン。黒いスニーカー。
そして、そのスニーカーを履いた足は地に足をつけていなかった。
司は「ハッハッ」と短い呼吸を繰り返しながら、なんとか冷静さを保とうと脳内で奮闘した。しかし、目の前のありえない出来事をなかなか頭が受け入れることができない。
しかし、一つだけ分かることがあった。コイツは人間ではない。コイツは、

───コイツは、「悪魔」だ。

司は警戒しながら、その男を「ジ…」と静かに見据えた。
その男も、しっかりと司のことを見据えていた。そしてニィと頬を上げると、いつの間にか腰を抜かしへたりこんでいた司に目線の高さを揃えるべく、その男、いや悪魔はしゃがみこんで言った。

「お前か?タヨ子さんのお孫さんっていうのは」

(コイツ、おばあちゃんの名前を知ってる!?)

司は更に警戒を高めながらも、素直にコクリと頷く。
悪魔はそれを確認すると、「OK」と笑顔で頷く。

「俺の名前は紅月(あかつき)。生前君のお祖母さんと契約を交わしていた悪魔だ」

その笑った口から、鋭い八重歯が覗いた。