スーパーへ行く途中、野部君に出くわした。

「桑野さん、買い物?」

エコバッグを見て判断したのだろう。

「うん。……野部君は?」

「僕は部活の帰り」

「大変だね」

「まあ、うん、そうだね。でも、自分で決めたことだからね」

真面目なのだろうか。

「桑野さん、友里のことよろしく頼むね。友里はああ見えて……いや、何でもない。忘れて」

「え?」

野部君は去って行った。

何だろう?

何か言いかけていた。

気になる。

野部君は幼馴染だし、浜岡さんのことをよく知っているのだろう。

そういえば、浜岡さんはファミレスで自分のことはあまり話さなかった。

そのことと関係あるのだろうか。




買い物を終え自宅に戻り、夕飯を作った。

今日のメニューはサバの塩焼きだ。

叔母さんは小言を言いながらも、完食した。

太郎の散歩を終え、自室に戻る。

今日もいろいろあった。

だけど、昨日と違って前進した。

そのことから来る、充実感や達成感、心地よい疲労。

私の人生も、まだ捨てたものじゃない。

私の居場所も、作ることができる。

そう思えるような、一日だった。

私はゆっくりと体を休めた。



翌日の昼休み。

私たち4人は部室にいた。

ここはもはや。私にとって定番の場所だ。

「そういえば、桑野さん。憲一君とスーパーの近くで会ったんだって?」

浜岡さんに聞かれる。

「そうだけど、どうして知ってるの?」

「憲一君から聞いた。」

そこから、自然と野部君の話題になった。

「桑野さん知ってる? 憲一君はテニスがすごく上手なんだよ。プロ目指すくらい」

浜岡さんは嬉しそうに話す。

「そうなんだ」

「それで、部活だけじゃなくてテニススクールも併用してるんだよ」

「テニススクール?」

「テニス教えてくれるところだよ」

そんな施設が近所にあるのか。

「で、友里と野部君はいつ付き合うの?」

会田さんがニヤニヤしながら、聞いてくる。

「私と憲一君はただの幼馴染で、そんなんじゃないって。何回も言ったでしょ」

「ふーん」

「つまんないですね」

会田さんも小村さんも、つまらなそうに言った。

私には幼馴染はいないので、よくわからない。

でも、長年一緒だったら、自然と恋心が芽生えそうな気もする。

恋愛小説の読みすぎかな。




放課後になった。

今日はバイトだ。

叔母さんから、バイトをして幾らか入れろと言われている。

バイト先である本屋へ向かう。