鍛えられたしなやかな体つきの長身に、隙なく着こなしたスーツ。

腕時計を手首に巻く仕草も雑誌や映画のワンシーンのように見えるのは、東雲部長の魅力か、それとも私の恋眼鏡のせいか。


「いってくる」

「はい。今日もよろしくお願いします」


そして、私より少し早く出勤する彼を玄関先で見送る際にドキドキするようになった理由は……明白だ。


「向日、忘れ物」


東雲部長が少し意地悪そうに口元に弓を引き、自分の頬をつつく。


「うっ……」


ここで拒んでも部長が譲らないことは、あの夜からこの数日で学んだ。

僅かに屈んで待つ彼の肩に手を添えて爪先立つと、暴れる心音を身の内で感じながら頬にキスをする。


「いっ、いってらっしゃい!」

「ああ、またあとでな」


満足気に言って私の頬にキスをし返すと、彼は朝陽を浴びながら玄関扉の向こうに消えた。

ひとりになった私は、熱い頬を手で覆ってそっと長い息を吐き出す。