世界は新しいもので溢れている。

人は日々何かを生み出し、それは世に広まることもあれば、個人の手に、胸に、頭にひっそりとおさまっていることも。

私の所属する広報部は、自社の商品を世に広めるのが仕事だ。

各商品の魅力を伝え、マスコミを最大活用し、WEBやSNSを駆使し、ひとりでも多くの人の目に止まり、手に渡り、喜んでもらえるようにと。

そんな私の日常でも、新しい生活が始まったわけだけど。


「おはよう、向日」

「おはようございます……」


身支度を整えてからダイニングに訪れた私の頭は寝不足でぼんやりしていた。

もちろん原因は昨夜のキス未遂事件とチラ見せされた微笑みのせいだ。

プラス、東雲部長が隣の部屋で寝ているという状況のせい。

何もなく普通におやすみなさいと言って布団をかぶっていたならもっと早めに夢の中へと旅立てていたと思う。

けれど、口の端っことはいえ、東雲部長の唇は確かに触れたわけで。

それだけじゃなく、押し倒されあげく、頬にも唇は這っていたのだ。

元彼と別れてからしばらく恋愛と離れていた身としては、過ぎた刺激。

何度寝がえりをうっても彼に触れられた熱を思い出してしまい、とうとう東の空が白み始めた頃、私はようやく訪れた睡魔を喜んで迎え入れ意識を手放した。