「ヂッグショオオオオオオオ」

ハンカチを噛みしめて涙を流す彼……いや、彼女は、マスカラが落ちてパンダどころか某海賊映画の主人公のような目で私を睨んだ。

仕事終わりに寄ったいきつけのbar。

少し暗めの間接照明が照らす店内は居心地がよく、いつもならリラックスできるところなんだけど。


「亜湖(あこ)! あたしの! どこがいけないのか! 教えてちょうだい!」


今夜は向かい側に座る人物のメイクが涙でぐしょぐしょのボロッボロなせいで若干ホラーチックな印象に早変わりだ。

高ぶりのままに言葉を強調しながらアドバイスを請われ、私は苦笑する。


「ゆずちゃんは良い女だよ。私よりも女子力高いし、羨ましいなーって思うもの」


そう。ゆずちゃんはとても女らしい。

男性なのに、部の誰よりも美意識が高くて、仕草だってセクシーで。

ただ……ただ。


「やっぱり体も完璧な女にならなきゃ相手にしてもらえないってことなのかしら」

「そこは関係ないんじゃないかなぁ」

「じゃあなによ」

「……毎回、彼女持ちの人に惚れちゃうからだと思うよ」


どうもゆずちゃんは人の男が良く見えてしまう性質らしい。