【中矢裕side】
時が流れあれから5ヶ月。
暖かい季節…というわけでもなく、生ぬるい風が吹いている季節。
…8月です。
もう臨月になった李那。
元々入院しているからなんの心配もない。
「…暑い。」
「クーラー効いてるよ?」
李那のお腹はすごく大きい…
突っついたらパンクするのでは…
「あー…暑い…溶ける。」
俺の隣でブツブツ文句を言いながら軽く歩く李那。
今は廊下でゆっくり歩いているだけだ。
「…下も見えないし、怖い。」
最初は歩くのを渋っていた李那だが、もう慣れたのか普通に歩いている。
「あーもう、いつ出てくるのかな?この子は。」
お腹を優しく撫でる李那。
「さあ、どうだろう。」
同じように李那のお腹に手を当てる俺。
「あ、そう言えば裕くん、センター試験とかは?」
「終わってる。」
介護士になる。
資格もちゃんととった。
進路が速攻で決まった俺はあとは車校に行って卒業するだけだ。
…早いなあ、3年になったら…
いつの間にか俺も3年なんだよなあ…
しかも今年は蒼空と海澪ちゃんと同じクラス。
「おお、受かったんだね。」
「もちろん。俺を誰だと思ってる。」
「私のスパルタのおかげ。」
…はい。ごもっともです。ごめんなさい。ふざけました。
「まあとりあえず、お疲れ様だね。」
よいしょっと木陰のベンチに座る李那。
「こんなにお腹大きくなるもんなんだな〜…」
「当たり前じゃん。もう産まれるんだよ。」
「いつ出てくるかな。」
「それさっき私が言った、この子のタイミングで出てくるから分からない。」
愛おしそうにお腹を撫でる李那。
母親としての愛を充分注いであげたいんだそう。
「さて、部屋戻るか。」
部屋に戻るのはいいけど、最近李那が冷たい。
部屋に戻って直ぐに追い出されてしまう。
俺の代わりに李那のお母さんが来る感じだ。
「はい、じゃあまた明日。」
…ほら今日もこうやってすぐ追い出す…
もう慣れっこですがね。僕はもう慣れました。
【中矢裕side END】

【如月李那side】
「李那、出来たんじゃない?」
「んーん、もうちょっと。」
裕くんを追い出してからすぐに来てくれるお母さん。
お母さんに手伝ってもらいながら私は作品作りをしている。
元々家庭が苦手な私。
マンツーマンでお母さんが編み物を教えてくれている。
生まれてくる子供のために帽子と靴下を編んでいる。
産着はお母さんが作ってくれた。
ーズキッ…
…?
今なんかお腹痛かったんだけど…
まあすぐ治ったし、気のせいかな…?
「ねえ、ここって……うっ〜…っ…」
「どうしたの?」
「なんか…お腹痛い…」
「あら、陣痛かもねえ」
かもねえ、じゃないよお…
「まだ大丈夫よ」
流石3人の子どもを産んだ我が母親。
余裕の顔で編み物を続ける。
「普通にしてなさい。大丈夫だから。」
「…うん、わかった…」
「ほらもうすぐ完成よ。」