《ご主人様》


隠形(おんぎょう)――姿を視認できないよう隠――したままの式(しき)に呼ばれ、一度瞼を下した。


「どうだった?」


《何やらにやにやしておりました》


「……は?」


式の報告に胡乱に訊き返せば、


《にまにま――とも言えましょうか。いつもの夜歩きかと思ったのですが、明らかに浮かれております。ふわっふわしております。一応おなごの私としては気味悪いです。もう見ていたくなかったので帰ってきました》


「………おい」


《では、私はこれにて》


「勝手に寝るな門叶(とが)! 明らかに浮かれてどこへ行くんだあの馬鹿は!」


《恋人のとこですかね》


「そう思うんだったらそこまで見届けて来い! その先が一番肝心なんだ!」


《だってキモかったんですよ》


「あれに恋人とかいたら桜城に何や言わなければならなくなるんだぞ」