――ちょっと、どうすればいいの、これ……。


小さな寝息しか聞こえない四人部屋の真ん中で、穂香(ほのか)は頭を抱えた。

穂香の手に握られているのは、一枚の便箋。

淡い水色のそれは、何度も書き直したことがわかるくらい消しゴムの痕が残り、よれよれになっているところもある。


穂香が佇んでいるのは【児童養護施設 ちしま学園】の女子棟、小学生四名が生活している、通称「藤島部屋」である。

ここでは、室担(しつたん)の苗字が部屋の名称となるため、藤島穂香が担当しているこの部屋は、横綱を輩出できそうな縁起の良い部屋、ということになっている。

穂香はここでのキャリア二年目。

やっと自分の部屋を持たせてもらえた駆け出しの「先生」で、日々巻き起こる事件に振り回されながらも一緒に泣き、笑いながら子どもに接している。


本日当直勤務だった穂香が女子棟を巡回して、最後に藤島部屋を見た時に発見してしまったのだ。

彼女が担当する児童の中で、今最も気がかりな「ちーちゃん」の枕元に置かれた手紙を。