「私、自分の名前が嫌いなの」


美麗(みれい)はリュックの中から答案用紙を出し、千尋(ちひろ)に渡した。

名前の欄には、慌てて書いたらしい、少し崩れた『麗』の文字。

美麗は乱雑な字を見られるのが恥ずかしくて、そう言い放った。


学校の近くにあるドーナツショップで、向かい合わせに座って中間テストの答え合わせをはじめる。

店内には、同じ高校の生徒が数人座っていた。

午前中にテストが終わり、ここで昼食を済ませてから遊びに行く予定なのだろう。

夏らしい陽気な音楽が流れ、テストが終わった開放感もあって、賑やかな話し声が響いていた。


「俺はいい名前だと思う。美麗にぴったりの、可愛い名前だ」

「どこが。だいたい、画数多くて書きにくいし、名前負けしてるし」

「そんなことはない。俺の自慢の彼女だから」

「またまた調子いいこと言っちゃって。だったら私のどこが好きなのかちゃんと言ってよ」


すると、千尋は真顔でこう言った。


「そんな大事なこと、ここで話す訳にはいかない。うちに来るか? 今なら誰もいないし」

「うん!」




――美麗はその後、何度となくこの日をやり直したいと考えた。