木曜日

【…夜勤明けの、疲れた身体を引きづりながら、まだ人気の少ない病院の廊下を歩くと、担当医ごとに与えられた部屋の前で、琉星に声をかけられ、自室に入るように促された。

殺風景なその小部屋の中で、デスクの横に備えられた、仮眠用のベットに座らされる。

「…婦長に聞いたよ。昨日の夜勤、大変だったんだろう?萌のことだから、頑張りすぎたんじゃないかって、気になってたんだ」

琉星はデスクチェアに座り、心配そうに覗き込む。

「平気よ…これくらい」

「萌、俺の前で強がるなよ」

何もかも見透かされたような目で、ぴしゃりと言い当てられた。

琉星の手が、膝に置いたままだった私の手を優しく包み込むと、少し強引に抱き寄せられる。

「…琉星!?」

「少しだけ、このまま抱きしめさせてくれ」

「ダメ…琉星はこれから仕事でしょ」

「君の疲れを癒すのも、俺の大事な仕事だよ…いや、本当は俺が君に癒されたいだけかもしれない」

優しく抱きしめられた琉星の腕の中で、頭上から自嘲めいたセリフが呟かれる。

「…それ、他の女性にも同じこと言ってたりして」

「さあ、どうでしょう?」

「…琉星、まさか?」

「フッ…馬鹿だな、そんなわけ無いだろう?」

琉星の大きな手が私の頬を包み込むと、熱っぽい眼差しで見つめられ、どうにも目が離せなくなる。

「…俺には君だけだよ、萌」

ゆっくりと近づく琉星の気配に、自然と瞼を閉じて…】


『おはよう、森野さん』
『ッ!』

不意に肩にポンと手が置かれ、飛び上がるほど驚き、振り返ると、昨日11階で会ったきりの牧村さんが、さわやかな笑顔で立っていた。