「功、もうご飯は食べたの?」


「んーん。久しぶりに梨乃のご飯食べたいなぁって。」


「そっか。お味噌汁とサラダとご飯あるから、用意するね。」


我が家でもお母さんは朝早く出勤だ。
お兄ちゃんがたまに料理をする事もあるけど

今は予備校に通っていて大変そうだから、大抵は私が作っている。



「はい。どうぞ」



「いただきます。……やっぱり美味しい。
梨乃の味噌汁は誰にも負けないね。」



「本当に?その味噌ね、お母さんと一緒に作ってみたの。だからかな?」


半年かけて発酵させた味噌。
私は料理がとっても好きなんだ。


「すごいね。そうだ梨乃、お嫁さんになるなら僕のお嫁さんになってよ。」



功は食べるのをやめて私の目を見つめた。

お嫁さん?

わたしが?

功の?



「え?急に何?功、私をからかってるでしょ?」



「…。あ、バレた?」


その返答に少し間があったのは気のせい?

冗談だとしても、一瞬胸がキュッと高鳴った。

…それで、嬉しかった。


お嫁さんか…。



一度はウエディングドレスを着て、
大好きな人と幸せに暮らす。


そんなの出来るわけないよ。
だって、いつかはその関係に終止符が打たれるのだから。



でも功がその人だったら?


…、もしかしたら、
私の事を大切にしてくれる?



ないない。
だって誰とも付き合おうとしない功が、
私を好きになるわけがない。


一度でもそんな事考えてしまい、功に申し訳なくなる。



「梨乃。ごちそうさま。」


「あ、うん。
じゃあ片付けるから、カバン持ってきたら?」


「うん。そうする。」



すると功は部屋を出て行った。



そして私はお皿洗いをする。
すると兄さんが起きてきて。


「あ、兄さんご飯適当に食べてね。私そろそろだから。」


「りょーかい。さっきの声からして…功来てるの?」


「うん、そうだよ。」



「そっか、仲良いね。俺もそんな幼馴染欲しかったわ。」



「でも海斗にはルナさんがいるじゃない。」


「ルナとは別れた。一昨日。」


ワントーン下げて、そう言う兄さん
それがなぜか、淋しそうに見えた。


「え?そうなの?」


兄さんは顔が整っているからとてもモテる。

それは中学の時からで彼女を取っ替え引っ替えしている。


でもルナさんは一年間と長い交際期間だった。


やっぱりお父さんの血を引いているからなのか、簡単に別れてしまう兄さん。



何となくそれが虚しく感じた。


気まずくなったのか兄さんは部屋を出て行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「梨乃。」


お皿洗いの途中だった。


功は私の名前を呼び
後ろから抱きしめた。



「えっ!?功、どうしたの?」



きっと今私の顔を見たら、
林檎みたいに顔が真っ赤だと思う。



だって普段そんな事功はしないもの。

ハグする事はあっても、合図があってからだ。



それに、慣れてたはずなのに
距離が近くて、背中があったかくて


なんか
ドキドキしてしまう自分がいる



功とは長い付き合いだけど、こんなの初めてで……


「梨乃、…あと少しだけ、このままでいさせて?ダメかな?」



功は、いつもよりも弱く話す。
甘えた声なのか、それとは違う声なのか、

私には分からなかった。




「功…?何かあったの?」


「…。ごめん、梨乃…」


きっと話したくない何があるんだろうな。

私を抱きしめるその腕にそっと触れた。