あの日から、2人きりになった時だけ、坂下は私のことを“ワカ”って呼ぶ。



だから私も、坂下のことを“パパ”って呼ぶんだ。



「私の師が個展を開いているのですが、今度の日曜日に行きませんか?」



坂下の書道の先生を見てみたかった私は、2つ返事でOKした。



行ってから知ったんだけど、ジイサンのライバルっていう程の有名な書道家だった。



こんなにエライ先生に師事してたんだ…。



「坂下くん、よく来てくれたね。」



作品を見ていた私たちに、お爺さんが話しかけてきた。



「ご無沙汰しております。」



坂下がそう言いながらお辞儀をするので、この人が坂下の先生なんだと分かった。



「そちらのお嬢さんは?」



「娘です。」



坂下がそう言うと思わなかった私は、ビックリして目を見開いた。



「挨拶しなさい。」



坂下が耳元で囁く。



「はじめまして…ワカ、です。」



一瞬、若菜と名乗るべきか迷ったけど…。



愛称を言った。



坂下はそんな私を見ると、イタズラっぽく笑った。