司会を務める教頭と蒼の指示で、坂下HRの連中が講堂を出て行った。



1番に飛び出して行ったのは、俺が長年片思いしてるあの娘だ。



「一時中断…ってとこだな。」



椅子に座りっぱなしで硬くなった体を解すかのように、伸びをしながら呟いた。



隣に座っている優なんか、余程座りっぱなしが辛かったのか立ち上がってるし。



「おい、さすがに立ってたら目立つぞ。」



小声で優をたしなめると、優がポツリと言った。



「便所。」



「はぁ?幼稚園児じゃあるまいし、式が始まる前に済ませとけよ…。」



からかうように言った俺の言葉に構わず、優は講堂から出て行った。



全く…彼女が見てたら笑われるぞ。



時間が経つにつれ、講堂が生徒のお喋りによって騒がしくなっていった。



坂下HRの連中が戻ってきて、最後の1人が席に着くのを確認すると、蒼も自分の席…坂下HRの副担任が座るべき場に戻った。



担任が座るはずだった席には、教頭が今朝急ぎでウチの店に注文した白い花束が手向けられていた。



この3年間、坂下とは一度も話す機会が無かったけど、こうして存在を無視されないんだから良い先生だったんだろう。



式が再開するというのに、優の奴はまだ戻って来ない。



…便秘か?



どさくさに紛れて出て行った優に構うことなく、式は進められていく。



「送辞。

在校生代表、桐生若菜。」



マイクを通した教頭の声が響くが、それに対する返事は聞こえなかった。



気になって2年の席を振り返って見たが、見当たらない。



「いませーん。」



「ってか、今日来てたっけ?」



なんて声が、2年の辺りで聞こえる。



教師の1人が、桐生ちゃんの担任に詰め寄った。



「アンタは、生徒の出欠も把握できないのか!?」



ははっ、暴力ふるわれた時の仕返しか?



やるじゃん、桐生ちゃん!