あっという間に神崎さんと別れてから一年が経ち、また新年度、春がやってきた。

営業二課は、今や神崎さんがいないことが当たり前となっていて、以前とはまた違った活気を帯びている。

「おはようございます」

ちょっとお硬めの黒いパンツスーツに身を包み、私は朝九時に出社した。

今日はいつもよりほんの少し気合いが入っている。

今まで、神崎さんの残した既存案件で手一杯になっていた私だが、とうとう、新規顧客の開拓に乗り出すことになったのだ。

既存の顧客は、長年取引を交わしてきた信頼関係がある分、付き合いが容易である。

それに比べ、新規の顧客というのは、まず信頼を勝ち取るところから始めるから、難易度がぐんと跳ねあがる。

この仕事を任せてもらえたのは、きっとこの一年、神崎さんがいなくても、ひとりで一生懸命頑張ってきたから――その努力と成果が認められてのことだと思う。

光栄であると同時に、どこか安心した。

神崎さんに縋りつかなくても、なんとか生きてこれた一年間に……。