高崎さんと一緒に取引先の会社を後にしたのは、午後2時を過ぎてからだった。

「話がまとまってよかったですね」

そう声をかけたわたしに、
「これくらいスムーズに行くと、楽で済むんですけどねえ」

高崎さんはふうっと息を吐いた後で腕時計に視線を向けた。

「お昼…と言うのはおかしいですけれども、どこかで食事でもしませんか?」

そう聞いてきた高崎さんに、
「いいですね、そうしましょうか」

わたしは首を縦に振って返事をした。

取引先との打ち合わせは12時半で移動中のタクシーでおにぎりを1つだけ食べただけなのだ。

正直なことを言うと、あまり食べた気がしなかった。

「あちらの方で食事をしましょうか」

そう言って高崎さんが視線を向けた先は、赤いレンガが素敵なお店だった。

名前は、『あけび亭』と書いてあった。