「ちょっとー!聞いてる?」

その言葉が僕に向けられたものだと気付くのには5秒ほどかかった。

「…僕?」

彼女は頬を膨らませた。
「そうだよー。君に言ってるの」

「あぁ、ごめん。桜」

すると彼女は立ち上がって外を見た。
「うわーー、綺麗!ここの席、眺めが良いね!暖かいしー!」

いいなぁ、私も窓側の席が良かったのになぁと呟きながら、彼女はまた座った。

「どうして君はいつも一人でいるの?」

「一人でいてはいけないという決まりはどこにもないよね」

僕が平然と答えると、彼女は心底不思議そうだった。


「うーん。そうだけどさ」君はむずかしいねぇと言いながらあくびをした。

「5限って、数学だったっけ?」

僕がこくりと頷くと彼女は「ありがとっ!」と楽しそうに叫びながら軽やかに席を発った。