その日は一日、校内では先輩の姿を見かけることはなかった。

 明日からはいよいよ期末試験だ。

 全然勉強していないのにな。

 昇降口まで一緒に来て凛に聞かれた。

「ねえ、今日高志がうちに来て勉強するって言うんだけど、朋樹はどうする?」

「遠慮しておくよ」

「遠慮って何よ」

 もちろん高志のことだけど、言わない方がいいだろう。

 きっと「あたし達の間には何もないよ、バーカ」ぐらい言われる。

「いや、ちゃんと勉強しないとやばいからさ。うちでやるよ」

「なんて言って、一人で先輩に会いに行くんでしょ」

「いるかどうか分からないじゃん。今日、学校で会ってないし」

「そうなんだよね。あたしも気になってるんだけどさ。そもそも三年何組なんだろうね」

「スマホで聞いてみれば」

「既読はつくけど返信はないんだよね」

 後ろから高志が来た。

「よ、お待たせ」

「じゃあ、高志と楽しんでよ」

 僕は二人に軽く手を振った。

「ハア? 楽しむって何言ってんのよ」と凛が怒り出す。

 僕はどうも間違ったことを言ったらしい。

「べつに何もしないし。高志と勉強すんだよ。バーカ」

 結局言われたよ。

 殴られるかと思ったら、凛が高志の背中に鞄を振り回す。

 高志はよけずに背中を丸めて受け止める。

 高志ごめんな。

 でも、うれしそうか。

「分かってるよ。頑張ってよ、勉強」

「なんだ、朋樹は来ないのかよ。三人って言ってただろ」

 凛が高志の腕を引っ張る。あれ、そもそも高志の方から誘ったって言ってなかったっけ?

「いいの、高志。こいつ、あたしら二人の関係に嫉妬してるから来ないんだってさ」

「おい、なんだよ、嫉妬って」

 凛に引っ張られながら高志が僕に片手をあげた。

「じゃあな、朋樹」

「うん、また明日」

 僕は心の中でがんばれよと声をかけた。

 凛はどんどん扱いが難しくなっていく。

 高志も災難だな。

 赤点取らないといいけど。