独身時代、いや、学生時代からの友人で、王位を継承してからも個人的なブリッジ友達であるルドルフ・フォン・アーチボルト伯爵は、国王であるリカルドにとって何にも代え難い大切な友人だった。
 大抵の者は、ブリッジ好きと謳って王宮に出入りを許すと欲を剥き出しにしてリカルドに取り入ろうとする。そして、その第一歩が、ただゲストとして呼んだだけなのに『陛下と親しくブリッジをする仲』と、社交界で面の皮も厚く言いふらし、リカルドがもう呼ぶのは止めようと思っているとも知らず、出世だ、叙勲だ、身内の就職だ、年頃の娘が居るの何だかんだと頼み事を押し付けてくる。
 その話しを聞いているだけで、リカルドはブリッジまで楽しくなくなり、会を解散してしばらくブリッジを休むことになる。それなのにルドルフはと言えば、大臣の一人がうっかり口を滑らせ、リカルドの個人的なブリッジ友達だと言うことが社交界に知れても、頼みごとの一つも、自慢話の一つもしたことがない。だから、逆にリカルドの方が興味を持ち、『娘を連れて遊びに来るように』と命じて初めて、娘のジャスティーヌを王宮に連れてきた。せっかくの双子だというのに、一人しか連れてこないので、『もう一人の娘はどうした?』と尋ねると、『将来、社交界デビューの時には要りようになるので、王宮に出向くような一張羅は一人分しか仕立てていないので、娘は二人同時に公の場所に出ないようにしている』と答える始末。よもや領地拡大か俸禄の値上げをして欲しいという頼みごとかと思えば『どっちにしても、もう一人の娘は引きこもりで、屋敷の外には出たがらないので、従兄を屋敷に引き取って遊ばせておりますから、ご心配には及びません』と、どれだけ親しくなっても個人的な頼み事一つするでもない。
 噂によると、陛下の一番長いブリッジ友達と知られ、頼みごとやいろいろな口添えを頼まれた事もあるらしいが、あののらりくらりとした性格と話し方で、結局、すべて断ってしまったらしい。
 それを考えると、今まで親友、心の友とも呼べるルドルフに、なんの特別なこともしてやらなかった自分が、酷く薄情な男に思えてくる。だから、ルドルフの娘をロベルトの妻に迎えれば、今までの冷たい仕打ちも帳消しになると、リカルドはほくほくと心弾ませながらロベルトのもとを訪れた。