■エピローグ


 本番を控えた舞台裏で、思いつめた表情をしていたのは一色だった。

「なぁ斉。吉川に、これがお前にとって最後の舞台だって伝えていないのか?」
「……ええ。きりは、来年も俺と芝居する気でいます」
「そうか。結局、君の親御さんは今年までの部活動しか許してくれないか」
「それでも俺はここに入れて良かったです。部長。本当にお世話になりました」
「その台詞はまだとっておけ」
「学園祭が終わったら、きりには伝えます。部員が増えず、なかなか切り出せませんでしたが。今なら安心して言えます」

 演劇部の部員は西条と内貴の効果で右肩上がりに増えている。

「もう、きりは一人じゃないので。俺が引っ張るのは……ここまでです」

 きりのことになると周りが見えなくなる一色は、どんなことをしても――たとえきりを傷つけても手に入れたくなっていた。

「ずっと大切にしてきたのに。アイツにあっさり持っていかれたのは本当に納得いきませんが」
「だったら奪い返してみるか?」
「はは。部長は誰の味方なんです?」
「さぁ。でも乙女心と秋の空なんて言葉もあるしな。斉にチャンスがないとも限らないだろう?」
「その割には部長は一途ですね」
「私の恋は、叶わない」

 図星をつかれても、まっすぐに一色の目を見つめる相川。

「どうあがいても対象にならない。今はまだ」
「その言い方。諦める気ないですね」
「もちろん」
「あの年でモテないわけでもないのに独身って。地雷の香りがしなくもないですがね」

 相川は、いい加減そうで頼りになる男に惚れていた。

「斉はさぁ。きりのこと、本当に恋愛対象としてみているのか? 家族みたいなものなんじゃない?」
「そんなことないですよ。俺はきりと結ばれたい。家に帰るときりが笑顔で俺を出迎えてくれればどれだけ幸せだろうなんて考えるくらいには」
「私はそんな君が好きだよ」
「ありがとうございます」
「形はどうであれ、きりにはこれからも斉が必要だ。どうか離れないでやってくれ」
「酷ですね。でも、安心してください。もちろんそのつもりです。これまで通り妹みたいに甘えてもらいます。あわよくば……手に入れてやりますけど」
「それがいい」

 微笑み合う二人。

「それじゃあ行ってくるよ。私にとっては最後の舞台だ。君たちのおかげで最高の年になった。本当にありがとう」