颯樹が自分の席についてからも、博はずっと颯樹の隣に立っていた。


その光景から視線をそらしあたしは単語帳を開く。


まさか颯樹が、ここまで簡単にアプリの利用者になるなんて思わなかった。


憤りと悲しさが湧き上がり、英単語は全然頭に入って来ない。


人のことなんて考えている暇はないと理解しているのに、気になって仕方がなかった。


「ねぇ、貴美子……」


弱弱しい声が隣から聞こえてきてあたしは振り向いた。


そこにいたのは友人の前原南(マエハラ ミナミ)だった。


南はクラスでも大人しいタイプで、ショートカットに黒縁メガネという地味な見た目の子だ。


それでもあたしにとっては話しやすい友人の1人だった。


「どうしたの南」


そう声をかけると、南は困ったように眉を下げて周囲を見回した。