『忌み子』

暗闇の中で、誰かの声が聞こえた。

『生まれてきてはいけなかったのだ……』

これは、何だろうか?そうボンヤリと思っていると、何かの映像が浮かぶ。

『お前は、我らと心を通わせる資格がある。龍使いを名乗るに相応しい心の持ち主じゃ』

これは、自分の記憶だ。

物心ついた時から、自分は龍の谷で暮らしていた。龍と共に育った自分にとって、龍族は大切な家族だ。

龍族の殆どが人間を毛嫌いし、龍を家畜にするために竜へと堕としたと聞いた時、自分がそんな人間と同じだということに、嫌悪感を抱いた。

龍の谷を守る者。または、龍を守護する者として生きてきたのに。

自分という種族が、嫌で仕方なかった。

まだもう少し幼い頃、好奇心から人間の村へ行き、そこで迫害を受けた。

誰もが自分の髪を見て、「忌み子」または「ディーファ」と呼び、冷たい瞳で見下ろした。

ディーファが神を殺した大罪人の生まれ変わりだと聞き、自分の赤い髪が醜く、汚わらしいものだと思え、赤い髪が大嫌いだった。

この髪と同じ赤色も嫌いで、特にリンゴが嫌いだった。

龍の谷にたった一本だけポツンと立っている赤いリンゴの木が、まるで自分みたいで。

『もう誰も失いたくないの!』

三年前出会った少女の姿が、脳裏にちらつく。

自分だけだと思っていたが、少女は赤い髪をしていた。

卵泥棒かと思った。けれども、必死に自分の相棒の爪にしがみつき、卵を取り戻そうとしている姿に動揺した。

自分より少しだけ幼い少女は、とても勇ましく、意思の強い瞳をしていた。

燃える炎のような、真っ赤な瞳を、少年は消せなかった。

もう二度と会うことはない。だから覚えている必要もない。

時と共に忘れていくだろうと思ったのに、少女の姿は色褪せることなく、脳裏に焼き付いていた。

『ピギィ!』

「………しー。静か………ね」

耳元で、誰かの話し声が聞こえる。

『リンゴ!』

「はいは………。食べ………いいよ……熱は………みたい」

少しだけ冷たい手が、自分の額に触れた。何故か、とても安心してくる。

すると、深い微睡みの中、少年はまた目を閉じた。