温かい誰かの手が、レインの額に触れた。

『また、怪我をしたのか?』

懐かしい声が聞こえる。知らないはずなのに、何故か好きだったと思える声。

『お主は優しい。それに、賢いからの。それ故心配じゃな』

そう、怪我ばかりしていた自分を、心配して頭を撫でてくれた。

『お主は私の、自慢の娘じゃ』

(……師匠?……違う)

この柔らかな、けれども厳しさも持ち合わせた声は、自分の師のものではない。

『約束を、忘れないでおくれ。……強くおなり』

(………そうだ。………約束…………したんだ)

けれども、どんな約束だっただろうか?

それを思い出そうとしても、何も浮かんでこない。

『忘れないでおくれ。そなたは―」

(………った)


「……分かっ………た」

『レイ!』

ペロッと何かが頬を舐めている。

「ん………んぅ?」

『レイ!ン!』

うっすら目を開けると、見知った顔が自分を覗きこんでいる。

『レイ、ン!ピギィ!』

「……………ティア?」

『ピギィ!』

そうだよと言うように、ティアは大きな声で鳴く。

「…………」

暫く呆けてから、レインはガバッと起き上がる。

「ティア!あなた、今!」

『レイン!』

ティアが喋っている。その事に凄く驚きながらも、レインはとても喜んだ。

「凄い凄い!!ティアが喋った!」

何度も凄いとレインは褒める。

『レイン!ピギィ!』

「……あれ、そう言えば膝………?……あれ?」

塗っておいた薬草を剥がすと、転んだ傷が綺麗に消えていた。

「?何で?」

『レイン!』

レインの膝の上に乗り、ティアはレインの顔を覗きこむ。

「!……考えても分からないし、行こっか」

『レイン!』

ティアはビョンッと跳ねる。

「…………もしかして、喋れるの私の名前だけ?」

『レイン!』

「…………」

どうやら、レインの名前が返事の代わりとなりつつあるらしい。

これは、そうそうに何とかせねばとレインは思った。