「さぁ、美恋ちゃん。恋のお勉強を始めようじゃないか」



……ち。現れたな裏切り者め。



玄関の扉を開けて早々、私は心底げんなりする。


そこには、キメ顔を作り、さらにナルシストっぽく前髪をかきあげるといった謎のキメポーズをしたジロが私を待っていたからだ。



あぁ。せっかくの清々しい秋の早朝が台無しだ。


もう一回言う。台無しだ。



「朝からうちの前でアホなことやるのやめてくれる?警察呼ぶよ?」


「警察といえど、恋して最強になった今の俺には適うまい」


「安心しろ。恋の“こ”の字を言う前に牢屋にぶち込まれるから」



通り道に立つジロを押し退け、家から最寄りの駅までの道を歩き出す。


いつもなら、ジロと並んで歩く道程を今日はジロをおいて早足で先を進んだ。


ほとぼりが冷めるまで、ジロとはしばらく関わらないでおこう、と昨日寝る前に決めたからだ。



うん。今は間違いなくそれがいい。


そうでもしなきゃ、コイツはまたろくなことを言い出しやしないんだから……。



「なぁ、美恋。昨日のことだけど」


「ひぇ!?」



い、いつの間に隣に!?



「何だよ?んな驚くか?」