「はよーっす!裕也(ゆうや)!なーなー昨日のアレ見た!?」


「おはよジロ。アレってなに?」


「ほらアレだよアレ!あの面白いテレビ!」


「だから、アレじゃわかんないっての」



登校してきて早々、男子二人のそんなやり取りが目の前で繰り広げられていた。


私は呆れたように溜息を一つ吐く。



……まったくもう。本当にコイツは。


“アレ”で人にものが伝わると思ったら大間違いなんだぞ。


ほら。高峰(たかみね)くんもすっかり困り顔じゃんか。



「おはよ」


「おは……ってうおっ!美恋(みこ)!お前、後ろにいたのかよ!?」


「駅からずっと後ろにいたわ」


「おいおいストーカーかよ!声かけろよな!」



誰がストーカーだ。誰が。



「なぁ、美恋は昨日のアレ見ただろ?ほら!あのテレビ……あーくそ!タイトルが思い出せねぇっ!」



だから、そんなの分かるのは────



「“世界の端々に行ってグー”でしょ。ジロ」


「そうそう!それだ!!さっすが美恋!!」



……私くらいだっての。




デカイ図体して小学生みたいに笑うこの男、ジロ───もとい、元木仁郎(もときじろう)は私、飯島美恋(いいじまみこ)の幼なじみであり親友。