浮浪町と呼ばれてはいるが、元々は平安町…都の一部だ。

だが光があればまた闇もあり、いつしかごろつきたちが住み着くようになった町の一部は橋を隔てて浮浪町と呼ばれるようになった。

浮浪町に出入りする者はそれなりの者たちなため、一般の市民は近付かない。


「ひと際大きな家があるんだが、明かりがついてないな」


「悪臭がするぜ、死体がありそう」


「だが人の気配もする。ちょっと行ってみるか」


牙と共に浮浪町の最奥へ辿り着くと、上空からも卑下た下品な笑い声が聞こえて眉を潜めた。

どうやらこの家にはごろつきたちが住み着いているらしく、多数の人が出入りしていた。


「あちこちぼろぼろだし、家主でもなさそうだな。…よし、ここにしよう」


「ええーっ?でもぼろぼろ…」


「直せばいい」


「誰が…」


「お前が」


牙は途方に暮れた顔をしながらも、主に命じられて尻尾をふりふりすると、鋭利な爪をにゅっと伸ばして舌なめずりをした。


「暴れてもいいのか?でも俺悪事はもう…」


「これは悪事とは言わない。俺たちは裕福だった家主を殺して住み着いているごろつき共を制裁するだけだからな」


「正義の味方!よし、やる!」


やる気満々になった牙は、血に飢えた金の目をぎらつかせて黎を笑わせた。


「どこが悪事はもう…だ。血を見たくて仕方がないという顔をしてるぞ」


「仕方ねえよ、俺妖だもん。黎様、先に行ってるから親玉見つけたらとっ捕まえとく」


「よし、行って来い」


どちらかといえば冷淡に見える美貌に笑顔が浮かぶと、でれでれした牙が矢のように浮浪町の最奥にある屋敷へ降りて行った。


「男は不味いから食うのはやめておこう」


牙とは対照的に、ゆっくり下降して不敵に笑んだ。