その日の晩、シェールは体調を崩した。

家令が心配して薬師を手配しようとするのを、ユジェナ侯爵が止めた。

「なぜですか?」

驚く家令にユジェナ侯爵は面倒そうに言う。

「村の薬師程度が、王弟妃を診るのは荷が重いだろう」

「そんな事はありません。ノーラはかつては王都で活躍していた有能な薬師です。ラドミーラ妃殿下が、体調を崩すなどはじめての事です。もし大きな病だったら……」

家令はとても心配そうで、今にもノーラに使いを送りそうだった。

「どうせ気鬱で伏せっているだけだろうが……そこまで言うのなら私が帯同している医師に診させよう」

「医師をお連れなのですか?」

「ああ。若いが腕は確かだ。三年前に私付きにしたのだが、口が固く信用出来る。後で妃殿下の部屋に行かせよう」

「はい……では、よろしくお願い致します。結果は私にもお知らせください」

「随分と熱心だな」

ユジェナ侯爵が意外そうに言う。

「……アルフレート殿下よりラドミーラ妃殿下をお守りするするよう厳命されておりますので」

「ほう……それは良い事だ。我が娘は殿下に疎まれていると思っていたが、勘違いだったようだな」

ユジェナ侯爵は機嫌良く言い、従者に医師を呼ぶように告げた。

それから半刻の後、ユジェナ侯爵付きの医師が、シェールの部屋にひっそりと入って行った。