マグダレーナは不機嫌顔で馬車に戻って来た。

「……何があったのですか?」

シェールが恐る恐る問いかけると、供の侍女が代わりに答えた。

「お嬢様は森に入る事を希望されたのですが、住民に止められ叶わなかったのです」

侍女の言葉にシェールは眉を顰める。

「どうして森に? マグダレーナ様は虫や動物が苦手でしたよね?」

庭園の散歩中に、ミミズが出たと大騒ぎをしていたのを思い出す。

大げさなくらい怖がっていたのに、森に入りたいなんて何を考えているのだろう。

「だから虫よけの薬が欲しくて近くにあった薬師の家を訪ねたのよ。そうしたらそこに居た男に森に入っては駄目だと追い返されたって。私に対して無礼が過ぎると思わない?」

「そ、それは……」

憤慨するマグダレーナの言う男は、ほぼ間違いなくカレルの事だ。

森の入口からノーラの小屋に向かっているのが馬車から見えた。

「本当に頭にくるわ! 明日出直して文句を言ってやるんだから」

「マ、マグダレーナ様、その男性の言う事は間違っていません。今は冬籠り前で、動物達が餌を探して森をウロウロしているのです。だからとても危険なんです。教えてくれた男性には感謝しないと」

マグダレーナがカレルに何かしたら大変だ。

必死にカレルの擁護をしていると、珍しく侍女が話に割り込んで来た。

「シェール様はあの男性をご存知なのですか? カレルと名乗っていましたが」