「殿下のお戻りはしばらく御座いません。妃殿下はご自由にお過ごし下さいとの御言伝です」

家令の報告を受けたシェールは、「そうですか」と無感動に頷いた。

結婚してあと少しで、千日になる。

今迄一度も帰って来た事のない夫が引き続き不在だからと言って、今更驚きも悲しみも感じなかった。

(結婚式にすら代理人を立てて来たくらいだもの)

余程、シェールとの結婚が不本意なのだろう。

政略結婚だから、望まれた花嫁では無いと分かっていたけれど、ここまで徹底して無視されるとは予想外だった。

結婚式も初夜もすっぽして顔も見せない夫に対して、初めは憤りを感じていた。
王族だからと言っても、あまりに失礼な態度だと思ったのだ。

でも、そんな気持ちは一月もしない内に冷めていった。

シェールが騒いだところで状況は変わらないし、本音を言えば初対面の相手と閨の事をするのは憂鬱だったから。

(私にとってはむしろ良かったわ)

夫婦として上手くいっていなくても、離婚しなければ約束は果たせる。

だから、シェールが不実な夫に文句を言った事はないし、今後も言うつもりはない。

結婚千日目を迎える日まで、王弟アルフレートの妃としてこの館に留まり続ける。