ケータイ小説 野いちご

【改】巡逢-茜色の約束-

出会いは茜色

 秋がその姿を見せつつある九月の終わり、窓側の一番後ろの座席。銀のフレームに切り取られた青をぼんやりと眺めながら、短く息を吐いた。

「そっちのお菓子ちょっとちょうだい」「おすすめのユーチューバー教えてよ」弁当を広げながら会話に花を咲かせるクラスメイト達が残り少ない高校生活を満喫しようと励んでいる中、俺だけが随分かけ離れた場所にいるように思う。

 午後からの授業のことを考えるだけで気が重くなってしまい、イヤホンを耳に差し込んで机に突っ伏した。耳元で流れるアップテンポの洋楽が騒々しさをかき消してくれる。

 適当に理由をつけてこのまま早退してしまおうか。一瞬、頭の中をそんな不埒な考えが駆け巡ったが、家に帰ったところで特にすることもないしと思い直す。
無駄に出席点を減らすよりはこのまま寝ている方がいくらかマシだ。

 たった十数秒で導きだした結論に従うことに決め、夢の世界に意識を手放した。




 意識が現実世界に引き戻された時、既に授業は始まっていた。
ぼんやりとした意識の中、黒板に書かれた内容と教卓の前に座って教科書を読みあげる人物から、今が古典の時間であると認識する。

 初めこそ注意されていた居眠りも、号令の時ですら起こされなくなった。それも、殆どの教科において。

 叩き起こされるのは不本意だが、起こされないというのもそれはそれで面白くない。


『愛情が勝っているほうと結婚しようと思ったが、愛情の度合いも全く同じようである』教科担当である初老の女性の声だけが静かに響く。

 さすが三年生と言うべきか、専門学校のAO入試なんかは一学期に終わっているので既に合格通知を受け取っている奴もいるかもしれないが大半はまだ〝受験生〟という立場であり、みんな真摯に授業に取り組んでいる。

 ……こんなに適当に学校生活を送ってるの、少なくともこのクラスでは俺くらいだろうなぁ。


「『日が暮れると揃って来て出会い、物を贈る時も全く同じように贈ってくる。どちらが勝っているということも出来ない。女は思い悩んでしまった』……というのがここまでの訳です」


 睡眠の所為で渇いた目を瞬かせ、机の中から青い表紙の教科書を取り出す。真新しい折り目がついたページを開いて、今現在取り上げられている内容を探した。


「じゃあ……芹沢さん、この続きを読んでくれるかしら」

「あ……は、はい」

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