ケータイ小説 野いちご

【改】巡逢-茜色の約束-

空蝉の鳴き声

 授業が午前中のみの土曜日。やはりどこか怯えた様子の芹沢のお達しにより、午後からは文化祭の看板製作に取り掛かることになっていた。

 準備初日は教室のレイアウトや衣装のデザインを考えるのがメインらしく、例に漏れず俺達も教室の隅の机で向かい合い、看板のデザインを決めることとなった。


「ねぇ、衣装って全員分作るのー?」

「そっちの壁って何メートル?」


 受験という憂鬱な事案からお祭りである文化祭に向けては気持ちの切り替えが簡単なのだろう、狭い教室内はいつにも増して賑やかだ。

 しかし、俺と芹沢との間に流れる空気は、けして明るいと呼べるものではない。


「一応、看板のデザイン案、いくつか考えてきたの」


 小さな肩を更に狭めながら、机の横のフックに掛けていた鞄の中から緑色のファイルが取り出される。そこから姿を見せたのは、四枚のルーズリーフだった。


「うわ、すげぇ」


 おずおずと差し出されたルーズリーフを受け取って、思わず声が漏れた。ルーズリーフにはそれぞれ違ったテイストのデザイン画が描かれていたのだ。


「絵、巧いんだな」

「そんなことないよ」


 謙遜した芹沢だけど、もっと胸を張っていいレベルだと思う。文化祭らしいポップなものから、本格的なお化け屋敷なんかにありそうなおどろおどろしいものまで、誰にでも描けるものではない。


「この中から決めよう。どれが第一候補?」

「決めてないんだ。綾瀬くんはどれがいいと思う?」


 不意に投げ掛けられた問いに、困惑する。


「どれがいいって、別に俺はどれでも」


 掲げたルーズリーフの向こうで、芹沢の表情が陰った。白い頬に、長い睫毛の影が落とされる。

 どれでもいい。それはけして関心がないから出た言葉ではなく、どのデザインも文句の言いようがないほど完成度が高く、四つのうちどれに決まってもいいと思ったからこそのものだった。が、そんなニュアンスを汲み取れる芹沢ではないだろうし、別の意味に履き違えられた言葉の真意をわざわざ弁解して説明する俺でもない。


「……これ」


 上から数えて二番目にあった、最もリアルな幽霊やら妖怪やらが描かれているルーズリーフを束から引っこ抜いて芹沢に見せる。ポップな絵柄のものは選びづらいのが本音だ。

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