ケータイ小説 野いちご

【改】巡逢-茜色の約束-

黄昏に揺れる

深い眠りについていた俺に朝の訪れを報せたのは、いつもの無機質なアラーム音でもましてや鳥の囀りなんてロマンティックなものでもなく、扉の向こうに感じる人の気配だった。

朦朧とした頭で必死に考えを巡らす。あぁそうだ、あいつがいるんだった。


「なんか、慣れねぇな」


 朝起きて家の中に自分以外の誰かの存在を感じたのは一体いつ振りだろう? 実家住まいの男子高校生が抱くにはヘンテコすぎる疑問を浮かべてみても、答えは導き出せそうにない。

 気怠い体を何とか起こして窓の外に視線を向けると、東の空から昇る朝日が視界に飛び込んでくる。その光はあまりに眩しく、思わず顔を顰めた。


「おはよう、千速くん」


 リビングの扉を開くなりキッチンから顔を覗かせた美生に「おう」とだけ返し、白と黒を基調としたダイニングテーブルに向かった。

 部屋全体にトーストの焼ける芳ばしい香りが漂っていて、寝起きといえど食指が動く。カウンターを見れば、半熟の目玉焼きとサラダが乗ったプレートが既に並べられていた。

 いつもはシリアルなどの手軽なもので済ませたり、食べないこともしばしばあるので、朝からこんなにしっかりとした食事を摂るのは久しぶりだった。


 美生の手料理を食べるのは昨晩に続きこれで二度目。昨晩はトマトパスタだった。

 同年代の他の女の腕前がどれほどのものかは知らないが、美生は料理がうまいほうだと思う。キッチンに立つ様子を眺めてみても、手際がよく家事に慣れていることが伝わってくる。

 今のところ怪しい行動は見受けられないので警戒レベルは引き下げてもよさそうだが、一つだけ引っかかったことがある。

 それは、昨晩のことだった。






 
 昨日、俺達が学校の敷地を出る頃。辺りはすっかり真っ暗で、街灯が寂しく照らす道を少し離れて歩いた。歩調は同じなのに決して並ぶことのないふたりの姿は、傍から見れば何とも不思議なものだったろうと思う。

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