ケータイ小説 野いちご

【改】巡逢-茜色の約束-

プロローグ・追憶

「俺と結婚してくれないか」


人生一番の賭けに出た。
都心にある一流ホテルの展望レストラン。
給料三ヶ月分……とはいかないもののかなり背伸びして用意した指輪を、淡いピンク色のドレスに身を包んだ目の前の彼女に差し出す。

 ……あぁ、やってしまった。
もっと気の利いた言葉を用意していたはずなのに、昨晩のイメージトレーニングも虚しくそれらはすべて頭の中から姿を消し、やっとの思いで声に乗せたのはそんなありきたりな台詞だった。

 ぎゅっと固く握りしめた手に汗が滲む。
胸に手を当てずとも、心臓が早鐘を打っているのがわかる。二十代半ばの男がこんな状態になろうとは。

 無意識のうちに落としてしまっていた目線を、たった今結婚を申し込んだ彼女に戻す。
と、涙をいっぱいに溜めた大きな瞳と視線が絡んだ。


「本当に……? 本当に、私でいいの……?」


 ばかだなぁ。何言ってんだよ。俺を支配していた緊張をどこかへ吹っ飛ばした彼女の発言は、代わりに頬笑みをもたらした。


「おまえでいい、じゃなくて、おまえがいいんだ」


 彼女の告白により交際が始まったのは、春一番が吹く卒業式の日だった。
あれから数年。大学生になってからも社会人として働くようになってからも、俺達は一度も離れることなくここまで歩いてきた。
今更他の人間と生きていく道なんて、もはや想像すらできない。


「返事、聞かせてくれないか」

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