ケータイ小説 野いちご

あなたの中の愛しい人

第6章 クリスマス



 クリスマスが近づくに連れて、永井さんと過ごしたいと強く思うようになった。街中が赤や緑で飾られているのを見ると、気持ちが高まるばかりだった。バイトのシフトは、なんの予定も決まっていないのに休みを入れた。このままでは、ひとりでクリスマスを過ごすことになる。永井さんはきっと仕事だ。休みは毎週木曜日。クリスマスは金曜日だった。仕事終わりに誘うとしても、もうそろそろ永井さんに予定を聞かなければいけない。だとしても、どうやって。ストレートに「クリスマスはどうするんですか?」なんて聞いたら、絶対に感づかれてしまう。まだ「再来週の金曜の夜って、空いてますか?」と聞く方がいい。「あれ? クリスマスじゃない?」と聞かれたら、「あ、そうでしたね。すっかり忘れてました」と答えればいい。そうだ、そうしよう。

 もし「いいよ」と言われたらどうしよう。とりあえず、永井さんが働くお店にケーキを買って持って行こう。重荷にならないような、小さなプレゼントも買って行こう。なにがいいだろう。

 まだ「いいよ」とも言われていないのに、私は勝手に盛り上がっていた。

 すると、携帯が震えた。永井さんからだ。

 携帯を持ち、深呼吸して平然を装いながら電話に出る。

「もしもし」

「お疲れ。今日って暇かな?」

 その一言にテンションが下がる。

「ごめんなさい、今日は今からバイトなんです」

「そっかぁ。残念」

 なぜ私を誘う? 気になる人は? 疑問が頭の中を駆け巡る。聞きたい、聞きたい、聞きたい。けれど、聞けない。

「あの、再来週の金曜日って暇ですか?」

「え? 再来週の金曜日? 急に先の話になったね」

 ふふっと笑う声が耳元で聞こえる。胸がいっぱいだった。

「あー……。ごめん、普通に仕事だ。夜しか空いてないよ」

 やった!

 携帯を持つ手に力が入る。

 嬉しい。飛び上がるほど嬉しい。でも、気づかれないようにまた小さく深呼吸した。

「いいですよ、夜で。私はバイト休みなんです」

「そっか。わかった。空けとくね」

 クリスマスの夜だとわかっただろうか。脳内シュミレーションのように聞かれる雰囲気はない。

「もうバイトの時間かな?」

「え? あ、はい。そろそろ切りますね」

「うん。頑張ってね。また再来週の金曜日に」

「はい!」

 どんな夜だとしても、私の夢は叶った。クリスマスの夜は、永井さんと一緒にいられる。

 バイトは終始にこにこしていて、にやけていた。時々そんな自分に気がついて「しっかりしろ!」と言い聞かせ、注文を取り、料理を運び続けた。いつもなら長く感じる時間もすぐに過ぎ、終わったときにはまだ体力は有り余っていた。




 吐く息が白かった。目の前にある背中を追いかけて、少し高いヒールで走る。

「おはよう!」

 ハルちゃんの背中をぽんと叩いた。

「びっくりしたぁ! おはよう。今日は元気がいいじゃん。何かいいことあったんでしょ」

 よくぞ聞いてくれました、と胸を張る。

「クリスマスの夜に、永井さんと会う約束したんだ」

「やったぁ!」

 きゃあきゃあと飛びついて喜んでくれるハルちゃんに、私も一緒に飛び跳ね抱きしめ返した。

「告白したの?」

「ううん、してない。けど、誘ったらいいよって」

 ハルちゃんは目をぎゅっと瞑って肩を縮こませた。ハルちゃんが嬉しいときはいつもこうだ。

「やったね! クリスマスに告白するの?」

「うーん……まだ考えてない」

「え? しないの? そこまでオッケーもらったなら、付き合ってもらえるよ。嫌いな人とか、なんとも思ってない人とクリスマスなんて一緒に過ごしたくないし。これはもう告白するしかないよ!」

 まだ少し先のクリスマスに、ドキドキしていた。考える時間はたくさんある。生まれて初めて好きな人と一緒に過ごせるクリスマスなのだ。たくさん期待してなにが悪い。

「ねぇ、プレゼントはなにがいいかな? 重荷にならないものをあげようと思ってるんだけど」

「そうだね、まだ一応付き合ってないもんね。でもさ、ナントカさんもプレゼント用意してくれてるかもしれないよ? もしかして、向こうから告白されたりして」

「ナントカさんじゃなくて、永井さん。そんなことは絶対にないよ」

「絶対ではないでしょ。あるかもしれないよ」

 しきりに肩をつついてくるハルちゃんに、嬉しさを隠しきれず顔が緩んだ。

「にやにやしないでよ」

「してないよ」

 プレゼントは期待していなかった。だってまだ付き合っていないのだから。告白するのかさえ考えていない。しかし、期待はどんどん膨らんでいった。

「プレゼント、なににするか考えなきゃね。ナントカさんはなにが好きなの?」

「だから、ナントカさんじゃないって」

 選ぶことがこんなにも嬉しいなんて思ってもみなかった。ほんの数時間だとしても、クリスマスの夜に会えることが一番のプレゼントだった。


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