ケータイ小説 野いちご

あなたの中の愛しい人

第10章 ワスレラレナイ



「どうしたの? なんかあった?」

 ベッドの中で、私の鼻に自分の鼻をそっと擦りつけながら訊いて来た。

「なにもないです」

「ならいいんだけどさ」

 久米茉莉だったかもしれない。死んでも幽霊になって現れたのかも。幽霊なんて信じていないけど、久米茉莉なら、やりかねないかも。手紙を返せてと言いに来たのかもしれない。

 永井さんのはじめての恋人、きっと今でも忘れられない人。私が越えられない人。どうして好きだったの? 忘れられないの? 初めての彼女だったから?

 聞きたい。のどの奥から言葉がせり上がってくる。でも聞けなかった。口を閉じて、言葉を飲み込んだ。

 柔らかいものが唇に触れた。忘れたい一心で、永井さんの唇を求める。もっと、このぬくもりを感じていたい。息が止まってしまってもいい。だからお願い、離れないで。そばにいて。

 ゆっくりと唇は離れ、永井さんはくるっと背を向けた。すぐに寝息が聞こえてくる。寝息に耳を澄ませながら、裸の胸を背中に押しつけた。なぜか寂しさを感じていた。触れ合っていたい。肌から永井さんを感じていれば、きっと安心して眠れる。そう思った。だが、よけいに虚しくなった。永井さんのぬくもりは私の中に溶け込まない。離れてしまえば、キスの感触も、肌のぬくもりもなにもかも忘れてしまう。こんなにも近くにいるのに、なぜだろう。さっきまで「好きだよ」と言って何度も求め合ったのに、満たされないのはなぜだろう。

 永井さんの腰に手を回した。離れないように、ぴったりと寄り添って、無理矢理目を閉じる。永井さんが私の夢を見ていることを願いながら、眠りについた。




 自分の部屋に入り、ベッドに腰を下ろすと、なんだかほっとした。遥か遠くの世界へ行って、しばらく帰って来られなかったみたいな気分だった。

 そのまま横になり、天井を眺めた。昔天井に貼っていたポスターのあとだろうか、うっすらと長方形の形が見えた。

 あの手紙には、結局なにが書かれているのだろう。永井さんも知らない真実が書いてあるのではないか。

 読む気がずっと沸いて来なかったのに、急に気になった。

 身体を起こし、引き出しを開ける。奥の方に手を入れて、手紙を引っ張り出した。中身を取り出す前に、もう一度よく考える。また、この間みたいに気分が悪くなるようなことが書いてあるかもしれない。そうだとしても、私は読みたいのか。

 手紙を開け、中から便箋を取り出す。さらっと文字を追い、この間読むのを断念したところまで追いついた。





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