一旦、私は副社長に手を引かれて控え室に戻ったのだが、何となく気恥ずかしくてまともに彼の顔が見られない。

「本当は、まだ怒りは収まっていないんだよな」

何を誤解したのか副社長がションボリと椅子に座る。

「言い訳がましくなるが、お前の告白の後、蘭子さんからいろいろ聞いたんだ。そして、あいつらを一網打尽にするためにはこの方法が一番だった」

「でも……」と副社長が顔を歪ませる。

「小金の奴、瑞樹を売り渡すなんて」
「えっ、どういう意味?」

思わず訊ねると、副社長の顔がニヘラと崩れる。

「やっと口を利いてくれた」

その嬉しそうな顔に胸がときめく……が、いや、今はそんな話じゃない。

「だから、それはどういう意味ですか?」

再度訊くと、「楠木の娘にだ」と吐き捨てる。

「茉莉乃さんのこと?」
「名前を呼ぶのも汚らわしい」
「彼女がどうしたの?」
「僕が瑞樹を溺愛しているから、瑞樹が手に入れば結婚できると思ったらしい」

やっぱり……と溜息を零す。

「呆れるだろ? 僕は瑞樹と奈々美のセットしか受け付けないのに」

何だそのセットって?
まぁ、とにかく茉莉乃さんは受け付けないと言いたかったのだろうと理解しておく。