「いーやぁぁぁ!」

瑞樹の絶叫に私は耳を塞ぐ。いくら可愛い瑞樹だと言っても、このいやいや攻撃だけは勘弁してと涙目になる。

これが始まったのは副社長のマンションを出た次の日からだ。



副社長が出張先から戻ったのは出張三日目の午後だった。

その連絡を受けた私は休みにもかかわらず副社長室に赴き、『マンションを出ることにしました』と言ったのだが……案の定、副社長は烈火の如く怒った。

『なぜだ』と問う副社長に、私はとうとう告白した。自分が本当は何者かを。
流石の副社長もその告白にはグーの音も出なかった。

それはそうだろう。
業界内で一番のライバル会社、新堂コンツェルンの娘だったのだから。

立つ鳥跡を濁さず。荷物運びは完璧に終わらせていた。だから、その場で今までの礼を述べて副社長室を後にした。そして、完全にマンションを出た。



「瑞樹の好きなカレーだよ。何が嫌なの?」
「いーやぁぁぁ!」

瑞樹はただただ泣き叫ぶばかりだ。
こんな感じでもう三日も過ごしている。

壁の薄い狭いアパートなので、虐待とか疑われたら、なんてことが頭に過ぎるほど瑞樹のいやいやはエスカレートしていた。

『もう、私の方が泣きたくなっちゃいました』

昨日は桜子さんと同じ時間のお迎えになり、ついつい愚痴を言ったら、『分かるわ』と大きく頷いてくれたので少しだけ気分が持ち直した。