「当時は、被害者である遙音に対する、事件後の被害がすごかったからな。保護する意味も含めて、少し離れた場所にある施設に預けた。あの頃の遙音に、周りを気遣う余裕もなかっただろう」


「……忘れちゃったのかな」


「どうだろうな……。あいつ、記憶力はいいけど、そういう辛い局面での記憶だけ飛ばしてしまうのが人間だからな。松生の言う通り、憶えているかと訊くのは酷だろう。松生のことを思い出すのは、イコール事件を思い出すのと同義だ」


「……笑満も、たぶんそういう風には告白しないと思う」


「知り合いだとは言わないということか?」


「うん……。どうするかは笑満次第だけど、藤城で逢った後輩としてすきになるって決めたって、言ってたから」