ロンドン塔の屋上で、お互いを見合っている三人の影。

黒い髪を肩に少し付く位まで伸ばし、静かな光を放つ瞳は髪と同じく黒い。月明かりに照らされた銀色のピアスがキラリと光る。

「いい加減にしてください」

とても落ち着いた、透明感のある女性の声が響く。

「僕は狙った獲物は逃がさない。勿論、君もね」

女性の前に立っているのは、金色の髪を後ろで一つに結び、眼鏡を掛けている青年。黒いシルクハットに黒いマントで、まるでカラスのように全身黒一色だが、不思議と彼には良く似合っていた。

「私の心は私だけのものです。貴方が私から盗めるものなどありません『黒の貴公子』」

「さすがは『ミス・アマネ』。ますます欲しいね」

黒の貴公子とアマネ。謎を解く者と謎をかける者。

「あのさ、俺のこと忘れんの止めてくれねぇ?」

アマネの後ろから、呆れたような男の声が聞こえた。

「ウィル」

アマネの助手の彼は、茶色の髪をなびかせながら前へと出る。

「お前にはアマネの心はやらねぇよ。……だってこいつゴリラだぞ!苦労するのが目に見えてんだぞ!止めとけ」

ピシッと親指で自分の後ろを指差す。その途端。

「………」

乾いた銃声の音が響いた。

「君、女性になんてことを………」

銃を発砲したアマネを見ながら、黒の貴公子はこめかみを押さえた。

これは、ふたりの男が一人の女性を巡って争い、時には謎解きをするお話……………かもしれない。