つい一か月前までは、マメに手紙でやりとりをしていたのに。

最近どういうわけか、高桐先生は。

あたしに全く手紙の返事を送ってくれない…。





『高桐先生はビターが嫌い。』

番外編:「会えないからって浮気ですか?先生、」





最後に手紙を送ったその内容は、高桐先生にとっても嬉しい内容のはずだった。

“来月、やっと帰国できることになりました!先生、早く会いたいです!”

あたしが、日本を離れてから、あれから約4年。

向こうのシンガポールの学校を無事に卒業して、高桐先生に会いたいのを毎日我慢して、勉強に励んで、短大に通って。

言葉の壁にぶつかって友達がなかなか出来なくたって、先生との手紙のやりとりでなんとかここまで頑張れていたのに。

…もしかして、まだ、手紙読んでくれてないのかな…。



「…どうしたの?奈央。やっと帰れるっていうのに」

「んー…うん。それはそうなんだけど。嬉しいけど」

「あ、もしかして久しぶりに友達に会うのに緊張してる?大丈夫だよ、」



そして、飛行機に乗る前の空港で。

見送りに来てくれているお父さんが、あたしの様子に気が付いてそう言って笑う。

本当は一緒に帰るはずだったけど、仕事が延期になって、あたしだけ先に帰ることになったのだ。

あたしはやがて自分に気合を入れると、ようやくお父さんに手を振った。



「…う、うん。大丈夫だよね。じゃあね、行ってくる」

「うん。あ、高桐先生?にもよろしく言っておいてね。あの先生には日本を離れる前にお世話になったから」

「………うん」



だけどやっぱり、憂鬱。

先生、あたしに会えないからって、他の大人な女の人と…浮気とか、してないよね…。